【ジャッジ向け】失格処分について知っておきたいこと
2014年1月27日 MtG コメント (2)失格処分について知っておきたいこと
鈴木 健二(レベル3ジャッジ)
1.はじめに
トーナメントにおいて、プレイヤーに「失格です」というのはどのジャッジにとってもつらいことです。失格裁定を出す必要がないままトーナメントが終わってくれればそれに越したことはありません。しかし、ジャッジはトーナメントの公平性を維持するためにも、必要であればその決断を行わなければならないのです。失格を見逃すことはその場の雰囲気を悪化させないかもしれませんが、しかしその見逃しによってあなたのトーナメントの公平性は、そしてさらにはマジックのトーナメントそのものに対する信頼が、失われてしまう結果となります。必要だと判断した場合には躊躇なく失格裁定を出しましょう。この記事では、いつ失格を出すべきか、そして失格を出したあとにどうすべきかについて述べます。
2.いつ失格を出すか
ジャッジは、ルール文書に則って裁定を行います。ルール文書には、失格を出すべき時がいつかがしっかりと書かれており、逆に言えばそれに合致しない場合には失格裁定は出すべきではありません。この文書のこれに該当するので失格ですとあなたがもし説明できないのであれば、それは失格裁定を出すべきではないのです。
一方で、もしルール文書にある失格裁定にふさわしいとあなたが判断したのであれば、失格裁定を出すことをためらわないでください。ここで失格を出すとあとで騒がれるのではないか、トーナメントが混乱するのではないか、そういった心配は非常に理解できるところですが、あなたの決断があるからこそ、マジックのトーナメントの健全性が保たれるのです。
またよく誤解されるところですが、「失格裁定」は、「あなたはイカサマ師(チーター)だ」と言うことと同義ではありません。日本人はプレイヤーにせよジャッジにせよ失格裁定を非常に重く感じる傾向にあります。プレイヤーによっては、失格になればだいたいはサスペンド(出場停止)になるだろうと思っている人もいるようですが、それは誤りで、世の中には「うっかり」で失格になったプレイヤーは数多く、失格裁定を受けた人のうちサスペンドを受ける人は(そういった人は悪意があると見なされたからこそサスペンドを受けるわけですが)ごく一部です。例えとしては、まあサッカーのレッドカードといったところでしょうか。重度な違反、したがって退場、でも出場停止かどうかはそれがどれだけ悪質かどうかで判断、という感じ。
そして、100%の証拠がなくても、あなたが証言や証拠から判断して、失格の条件に当てはまることが十分確からしいと思ったら、失格裁定を出してください。ジャッジの裁定は裁判ではありませんので、不確定な部分が残っていたとしても、たとえば「諸々の状況を鑑みて、私はプレイヤーAは嘘をついていると判断した。したがって失格処分を出した」という裁定をしても良いのです(もちろん状況をきちんと把握してできるだけしっかりとした証拠の元に裁定を出した方が望ましいことは当然ですが)。プレイヤーには、その裁定についてアピールをする権利があり、直接ウィザーズの本部にアピールをすることができます(日本語でもできます。その場合英語訳されてシアトルに転送されます)。
そういった諸々の手続きのためにも、失格を出したときにはきちんと証言と状況を文書化して残しておく必要があるわけですが、それについては後の章で述べます。
また失格裁定を出す前には、すべての関係者から証言を聞き、できるだけ正しい判断をするように心がけてください。インタビューは非常に重要です。何人かから話を聞くと、証言に矛盾があることがよくあります。その場合誰かが嘘をついているか、記憶違いで話をしているのです。また物的証拠、たとえばテーブルのカードの状況、ライフメモの状況なども重要な要素になることがあります。
失格裁定に関するルール文書
失格裁定に関する文書は、ルール適用度が一般であれば「一般イベント用ジャッジ法」であり、競技であれば「マジック違反処置指針」です。それぞれの文書を説明し、いつあなたが失格を出すべきか、いつ出すべきではないかを見てみます。
ルール適用度一般の場合(一般イベント用ジャッジ法)
ルール適用度一般における失格裁定については、「一般イベント用ジャッジ法」の『重大な問題』の章に記載されています。
『重大な問題』
イベントにおいて決して許容されない類の振る舞いというものが存在します。イベント前、イベント中にプレイヤーを教導するためにあらゆる努力は払われるべきですが、この一覧に書かれていることを無視することは認められません。以下のようなプレイヤーは、イベントから退場にし、主催者の判断で出入り禁止にしてください。
ルール適用度が低くても、それはトーナメントに参加すべきでないプレイヤーが参加しても良いという理由にはなりません。もちろんここにあるとおり、教育的観点から、あなたはこれから説明するような「非常に良くないこと」が起こらないように、プレイヤーに目を光らせ、必要であれば注意などを行うことは推奨されることです。しかしいったん「非常に良くないこと」が起これば、あなたはそれに毅然と対応しなければなりません。
実際に失格の対象になる行為は以下の通りです。
*(物理的であれ口頭であれ)攻撃的行為、暴力的行為、罵倒的行為
どんなものであれ暴力が許されないことは論を待たないところですが、それ以外でも、相手を激しく威嚇、または脅迫するような行為、また差別的な発言などを行うことは、マジックのトーナメントでは全く許容されない行為です。
*故意にルールを破る(ゲームのルールであれイベントのルールであれ)、ウソをつく(誘発忘れ以外の対戦相手の不正なゲームの行動を指摘しないことも含む)
「故意にルールを破る」とは、具体的には、
・ ルール上マッチの開始時にはデッキをメインデッキの状態に戻さなければいけないと知っていながら、わざとサイドボードを戻し忘れる
・ デッキを適切にシャッフルする方法を知っていながら、わざと十分でないシャッフルをする
・ シールドデッキのカード・プールにこっそりカードを加える
・ うっかり違反をしたことに気づいたが、懲罰を受けるのを避けるためにジャッジを呼ばなかった
などの行為を指します。つまり「これは違反だな」と知っていて、その上でわざとその行為をするということです。ここで注意してほしいのは、失格を出すための前提として、「そのプレイヤーがその行為が違反行為であることを知っている」必要がある事です。よくある例として、「土地呪文呪文3枚切り」シャッフルだけしかしないプレイヤーがいたとします。もし彼がトーナメントに出るのは初めてで、今までずっとそのシャッフルが「シャッフルテクニック」の1つで許される行為だと信じていたのであれば、彼に失格は出すべきではありません(彼はわざとルールを破ろうとしたのではなく、間違ったルール知識に乗っ取ってプレイしていただけなので)。
また「ウソをつく」については、もちろんジャッジに嘘をつくことは全く許容されませんし、また相手のルール違反に気づいてそれをわざと黙っていることも許されません(たとえば、「今指摘したら巻き戻されてしまうから、もう少し待ってから指摘しよう」というのも許されない行為です)。正しくゲームを進行させるのは両プレイヤーの責務なので、誘発忘れを除けば、相手の行為であろうが、ルール上間違いがあれば指摘すべきですし、間違いかどうか曖昧であればジャッジを呼ぶべきです。
*マッチ結果の(買収、脅迫、ゲーム外の方法などによる)捏造、あるいはイベントに関する賭博
失格で最も多い例の一つが、「引き分けはもったいないからサイコロを振ってどちらかが勝ったことにしよう」です。さいころを使って勝敗を決めることは決して許されません。また、金品と引き替えに結果を左右する事も許されません。プレイヤーはいつでも投了する権利がありますが、しかしそれは純粋に投了した場合のみで、何かと引き替えに投了することは認められず、それを行ったプレイヤーは(提案した方も、受けた方も)失格になります。
またこの場合は、その行為が正しくないということをたとえ知らなかったとしても、失格を免れる理由にはなりません。サイコロを振ることがだめだと知らなかったとしても、サイコロを振って勝敗を決めれば、両方のプレイヤーは失格です。
もしあなたがこれについて心配であれば、トーナメント中にこういった行為が許されていないことをアナウンスすべきでしょう。とあるお店ではこういった行為が許されていないことを必ずアナウンスし、また店内にも掲示を行うなどしており、すばらしいと感じました。
*窃盗(ドラフト中にレアをバインダーの中のカードと入れ替えるようなことを含む)
もちろんですが、窃盗は許される行為ではありません。失格処分はもちろんですが、主催者と相談して、警察に連絡するなど、しかるべき法的措置をとりましょう。
ルール適用度競技・プロの場合(マジック違反処置指針)
競技レベル以上においては、基本的にはマジック違反処置指針に書いてあることがすべてです。例示もありますので、それを参考にすれば、いつ失格を出すべきかが分かるでしょう。
また注意として、マジック違反処置指針は、競技レベル以上のトーナメントのみに適用され、一般のトーナメントには適用されません。一般トーナメントで、「マジック違反処置指針の精神を鑑みて」裁定を出す行為はやめましょう。マジック違反処置指針は、競技以上であることを前提とした文章であり、これを一般のトーナメントに適用するべきではありません。
4.3. 非紳士的行為 ─ 結果の捏造
懲罰:
【失格】
定義:
プレイヤーが、ゲーム外の方法でゲームやマッチの勝者を決めようとした、あるいはそう提案した。
例:
(A) イベントで時間切れに際して、引き分けになりそうだった2人のプレイヤーがダイスを振り、勝者を決めた。
(B) マッチの勝者をコイン投げで決めようと対戦相手に提案した。
(C) プレイヤー2人が腕相撲をしてマッチの勝者を決めた。
(D) プレイヤー2人がじゃんけんをしてマッチをするか引き分けにするかを決めた。
理念:
ゲーム外の方法で勝者を決定することは、イベントの完全性を危うくする。
時間切れによって引き分けになったマッチはその通りに報告されるはずであり、その結果を決定するために不正な方法を用いることはこの懲罰の対象となる。
多くの場合、この懲罰は両方のプレイヤーに適用される。勝者を決定する不適正な方法を対戦相手が提案してきた直後にジャッジを呼んだ時だけがその例外である。
「サイコロを振る」行為は、提案した方も、受けた方も、またそれがルール違反であることを知らなくても、失格の対象です。提案を受けたプレイヤーが失格を免れる唯一の方法は、即座にジャッジを呼ぶことです。マジックのゲーム以外の方法で勝敗を決めることは決して許されません(投了はもちろんできますが)。
また2勝1敗であったものを2勝0敗にすることも、同じように結果のねつ造となります。プレイヤーは、終わったゲームは必ずその通り報告する義務があります(1勝1敗から相手が投了しても、1回負けたことには変わらないので2勝1敗になります。2勝0敗にする事はできません)。
4.4. 非紳士的行為 ─ 買収・賭博
懲罰:
【失格】
定義:
プレイヤーが、対戦相手を誘惑して投了させたり、引き分けにしたり、マッチ結果を捏造したりさせようとした、あるいはそれを受け入れた。マジック・イベント規定に、買収の成立条件についてより詳しく記載されている。
賭博とは、プレイヤーまたは観客がイベントやマッチ、あるいはその一部の結果に関して賭けを行なうことである。賭博は金銭に限るものではなく、また、賭けの対象が自分のマッチかどうかも問題ではない。
例:
(A) スイス・ラウンドの間に、対戦相手に100ドルで投了してくれないかと持ちかけた。
(B) 対戦相手に、カードをあげるからIDしてくれ、と申し出た。
(C) 賞金を山分けにする代わりに投了してくれるよう、対戦相手に頼んだ。
(D) マッチの勝者が相手のデッキからレア・カードを1枚選んで取ってもいいと、プレイヤー2人が同意した。
(E) 観客2人が、あるマッチが終わるまでに何ゲームかかるかに関して賭けを行なった。
理念:
買収と賭博はイベントの完全性を損なうものであり、厳しく禁じられている。
買収はつまり金品と引き替えにマッチの結果に影響を与えさせる行為です。「賞品を山分けしよう」という約束はいっこうにかまいませんが、それによってマッチの結果に影響を与えてはいけません。また勝手に投了するのもかまいませんが(よく「土下座」とか言いますよね)、その投了に見返りがあってもいけません。
賭博はトーナメントルール上認められていない上に、法令上も問題があるでしょう。また賭博を行った場合、そのマッチのプレイヤーでなくても、またトーナメント参加者でない人でさえも、失格の対象になります。
4.5. 非紳士的行為 ─ 攻撃的行為
懲罰:
【失格】
定義:
他者あるいはその持ち物に対して脅迫的な振る舞いをした場合、この違反となる。
例:
(A) 投了しなかったプレイヤーに、殴ると脅した。
(B) 他のプレイヤーの座る椅子を引いて、そのプレイヤーを床に倒させた。
(C) 裁定を受けた後で、ジャッジに脅迫的な態度を見せた。
(D) 他のプレイヤーのカードを引き裂いた。
(E) 故意にテーブルをひっくり返した。
理念:
イベントの全関係者の安全は、最優先されることである。物理的な悪用や恫喝行為には、許容の余地はない。
追加措置:
イベント主催者は当該行為者をイベント会場から退場させるべきである。
暴力行為は決して許されません。また暴力を示唆して威嚇する行為も同様に決して許されません。そういった行為が発生した場合、単に失格を出すのみではなく、主催者と話をし、そのプレイヤーを会場から出すのに加え、必要であれば主催者と相談し、法的な処置が取られるようにしましょう。
4.6. 非紳士的行為 ─ イベント物品の窃盗
懲罰:
【失格】
定義:
イベントで用いる、カードやイベント用の備品などの物品を盗んだ場合、この違反になる。
例:
(A) リミテッドのイベントで、自分の開けたカードプールにあったプレミアム版のレアを、登録中にポケットに入れた。
(B) 対戦相手のサイドボードからカードを盗んだ。
(C) テーブル番号札をテーブルから盗んだ。
(D) 前の対戦相手のカードが自分のものに混じっているのに気づいて、スタッフに報告せずに隠した。
理念:
プレイヤーは、自分の物品がなくなることを心配せずにイベントに参加する。しかし、これはプレイヤーが自分の所有物に注意を払う責任がないということではない。また、イベントに持ってきた、あるいは配られた物品を最後まで持っていることは当然である。イベントの物品に関係しない窃盗はイベント主催者の責任になるが、ジャッジは可能な限り主催者に協力すべきである。
追加措置:
イベント主催者は当該行為者をイベント会場から退場させるべきである。
どんな些細なものであっても(ボールペン1本でも、テーブル番号1枚でも)、窃盗は許されません。
ただし注意してほしいのは、リミテッドのトーナメントにおいては、プレイヤーはいつでも手元にあるカードを持ってドロップできるということです。たとえばM14のシールドトーナメントのカードプール登録中に、あるプレイヤーがフォイルの《テューンの大天使》を見て、「僕はこれを持ってドロップしたい」と言ったとします。これはトーナメントルール上、許される行為です。ドロップした時点で彼の持っている(登録中の)カードは彼のものであり、彼はそれを持って帰ることができます。こういった行為を窃盗に類似する行為と見なす論調も以前はありましたが、公式見解として今はそれは許される行為ということになっています(ただしそういったプレイヤーが再びその地域のトーナメントで歓迎されるかは別の話です)。
4.7. 非紳士的行為 ─ 遅延行為
懲罰:
【失格】
定義:
時間制限を利用して有利にしようと、故意にプレイを遅くした場合はこの違反になる。故意でない場合には、〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕を適用する。
例:
(A) 手札に土地カード2枚だけを持っているプレイヤーが、ゲームに大した意味のある行動を取れない状況で時間をかけて『考え込んで』いて、時間を食いつぶしていた。
(B) 優勢なプレイヤーが、対戦相手に逆転のチャンスを与えないように明らかにプレイのペースを落としていた。
(C) 遅いプレイをしていたプレイヤーが【警告】を受けた際、考える時間を稼ぐために上訴した。
(D) マッチの第3ゲームで、次のゲームで対戦相手が勝ちにくくなるように、ゲーム開始前の時間制限を故意に超過した。
(E) ゲームで不利になったプレイヤーが、時間切れになるようにプレイのペースを落とした。
遅延行為は判断が難しい反則の一つです。ただ単に「プレイが遅い」だけでは遅延行為とはなりません(遅いプレイで警告は出るかもしれませんが)。「制限時間を利用して有利にしようと」「わざと遅くした」の2つの条件に当てはまらなければいけません。前者を判定するためには今のゲームやマッチの状況が重要ですから、裁定を出すためには当然それらを考慮しなければなりません(逆に〔遅いプレイ〕についてはゲームの状況は関係ありません。絶対的に遅いかどうかだけを見ます)。
あまり時計を気にしすぎるプレイヤーには注意しましょう。テーブルそばでジャッジが見ているだけで効果があることも多々あります。
4.8. 非紳士的行為 ― 故意の違反
懲罰:
【失格】
定義:
イベント関連文書で定められた規則を破ったり、イベント・スタッフに嘘をついたり、あるいは、自分(やチームメイト)のマッチで違反があったにもかかわらずそれに注意しなかったりした。
また、以下の条件を満たしていない場合、〔故意の違反〕にはならない。
そのプレイヤーが自分の行動で有利を得ようとしている。
そのプレイヤーが自分が不正なことをしていると認識している。
どちらかの条件でも満たしていなければ、その違反は〔故意の違反〕ではなく、他の違反で取り扱われるべきである。
〔故意の違反〕は一見すると〔ゲーム上の誤り〕や〔イベント上の誤り〕になるので、意図や認識を確認するためにジャッジによる調査が必要である。
例:
(A) プレイヤーが、マッチの終了後にそのマッチの結果を変更した。
(B) 自分の主張を強めるため、ゲーム中に何が起こったかについてイベント・スタッフに嘘をついた。
(C) 対戦相手のクリーチャーが致死ダメージを受けていないにもかかわらず、対戦相手がそれを墓地に置くことを放置した。
(D) 対戦相手が《饗宴と飢餓の剣》の誘発型能力の半分だけを解決したことに気付いた上で、その誤りを指摘しなかった。
(E) ドラフト中に、他のプレイヤーのピックを覗き見た。
(F) 対戦相手が土地を散らして充分に無作為化をしていないのを見て、ジャッジを呼ばずに、その土地を散らしたことを逆用するようなパイル・シャッフルをした。
(G) シールドデッキのカード・プールにカードを加えた。
(H) 過剰なカードを引いてしまったことに気付いたが、懲罰を受けるのを避けるためにジャッジを呼ばなかった。
これは、一般のところで述べた「故意にルールを破る」と同じ考え方です。重要な点を繰り返すと、これに該当するためには、
・そのプレイヤーが自分の行動で有利を得ようとしている。
・そのプレイヤーが自分が不正なことをしていると認識している。
の両方を満たしている必要があります。過去はこの2番目の条件が必要ありませんでしたが、今は必要です。一般のところで述べたように、「だってこうやるものだと思ってたんだもん」という証言があり、あなたがそれを信用に足ると思うのであれば、それは〔故意の違反〕とはなりません。従ってこの項目については、ルール文書にもありますが、インタビューが非常に重要になります。
ただし、「サイコロを振って勝敗を決める」や「贈賄」など、別途ルールの項目があるものに関しては、この条件は適用されません。サイコロを振ることが不正であることを知らなくても、贈賄が許されないことを知らなくても、サイコロを振ることや贈賄は失格です。
またジャッジに対するウソはどんな些細なことであっても失格裁定の対象です。ジャッジには基本的にゲームに関するすべての質問について、すべての情報を正直に話さなければなりません(相手に聞かれたくない場合はテーブルを離れて話す事は可能です)。ただし、プレイヤーが記憶違いの証言をしていて、「やっぱり思い出した」ことにより証言を翻す場合には、かならずしも失格裁定を出す必要はありません(意図的に嘘をついたわけではないので)。ただし、それによってヘッドジャッジはその証言の信憑性が低いと判断することはあるかもしれませんが。
3.失格を出すと決めたらどうするか
あなたが失格裁定を出すべきと決めたとしましょう。
まず、あなたはヘッドジャッジですか?それなら次に進んでください。ヘッドジャッジでなければ、ヘッドジャッジに相談してください。失格裁定を出せるのはヘッドジャッジのみです。フロアジャッジが勝手に失格処分を出すことは基本的に許されません。
さてまずそのプレイヤーに失格であることを告げる必要がありますが、通常はそのプレイヤーを対戦テーブルから離して、別のところに来てもらって、そこでヘッドジャッジがプレイヤーに告げることになります。これは、そのプレイヤーの事を考えて、またトーナメントにいらぬ混乱を招かないようにするための手法です。その際、そのプレイヤーがどの項目に該当し、またなぜあなたがそう判断するに至ったのかを、きちんと説明しましょう。そのプレイヤーは何か言いたいかもしれませんが、あなた(ヘッドジャッジ)が失格の裁定をすると決めた以上、そのトーナメントにおいてはあなたの判断が最終判断です。まずはあなたの裁定を説明してください。
その際、もし暴力や、窃盗などの場合には、会場からも出てもらうのがいいでしょう。また直接他のプレイヤーといざこざがあった場合には、できるだけそのプレイヤーと離れた場所にいさせるようにしてください。
基本的にトーナメント自体は、そこからそのプレイヤーを除いた形で通常通り続きます。ただし失格裁定を出した場合、ちょっとしたペーパーワークが必要です。
それは、失格処分を出した場合、あなたは基本的にそれをDCIに報告しなければならないからです。何を報告するかというと、
(1)トーナメントの種類、日程、認定番号
(2)失格になったプレイヤー名、DCI番号
(3)失格になった理由(ルール上の区分)
(4)関係者のDCI番号、連絡先、証言
これらです。これがすべて必須です。失格裁定を出した時点で、(1)から(3)はすべて大丈夫なはずです。問題は(4)です。これをどうやって作るかです。
まず、関係者すべてに失格処分について告げ、「失格処分について、その時の状況について、証言を文書にして書いてください」とお願いしましょう。ここで言う関係者とは
・あなた(ヘッドジャッジ)
・そのルーリングに携わったフロアジャッジ
・失格になったプレイヤー
・その対戦相手
・(必要であれば)観戦者
です。基本的には、あなたが失格裁定を出すためにインタビューをした人すべてです。
プレイヤーは、証言を書くことはできますが、拒否することもできます(失格処分を受けた人を含む)。ジャッジは拒否することは許されません(ジャッジはトーナメントを円滑に進めるためにいるのですから、書いて当然です)。プレイヤーに書いてもらうことは、その時の状況、どうプレイしたか、どう発言したか、などですが、その他何を書いてもかまいません(その失格裁定に関することでさえあれば)。反省の弁でもかまいませんし、「俺は絶対にやってない」でもかまいません。
フロアジャッジは、状況と、フロアジャッジなりの判断(「以上の状況から失格裁定がふさわしいと判断し、ヘッドジャッジに相談した」など)を書きます。
観戦者は、インタビューで聞かれたような、その時の状況を書きます。
ヘッドジャッジであるあなたは、なぜ失格裁定という判断に至ったのか、他の人が分かるように詳しく書きましょう。あなたの書く証言書がこのあとのプロセスで最も重要です。
・こういう状況でジャッジが呼ばれた。
・両プレイヤーにインタビューしたところ、こういう証言を得た。
・その他観戦者にインタビューしたところ、こういう証言を得た(必要であれば)
・証拠と証言を勘案すれば、実際はこういうことだったと判断される。
・したがって、プレイヤーAはこういう理由から、〔***〕に該当すると判断され、失格裁定を出した。
だいたいはこういった構成になるかと思います。
証言は日本語でかまいません。その場で紙に書かなくても、あとでメールで送ってもらってもかまいませんが、ただできるだけその場で書いてもらった方が良いでしょう。(時間がたてばいろいろ忘れてしまう)
そしてここで一番重要な事があります。かならず、関係者全員のDCI番号と、リアルの連絡先(メールアドレスか電話番号)を教えてもらってください。証言の内容を確認するために、その人に直接メールなどで問い合わせをする事がたまにあります。そのためにも、全員の連絡先は必要なのです。証言を書きたくない、というプレイヤーであっても、連絡先は教えてもらってください。
あなたは集めた証言を、ジャッジ用のwebサイトである、judge.wizards.comに登録する必要があります。この方法が分からない場合には、トーナメント終了後、WPNの日本本部に問い合わせるようにしてください。
繰り返しになりますが、失格になったからといって、必ずサスペンドが出る訳ではありません。あなたが集めた証言を元に、サスペンドを出すべきかどうかが判断されます。それゆえ、しっかりと証言を集め、連絡先を聞いた上で、あなたの判断の結果を文章として残すことが重要になるのです。確かに少し面倒なことですが、これはトーナメントの健全性を保つために必要なものですから、「失格とか出すといろいろ面倒だなあ」とつい思ってしまうかもしれませんが、毅然とした態度で、失格を出すべき時は出すという態度で臨んでいただければと思います。
鈴木 健二(レベル3ジャッジ)
1.はじめに
トーナメントにおいて、プレイヤーに「失格です」というのはどのジャッジにとってもつらいことです。失格裁定を出す必要がないままトーナメントが終わってくれればそれに越したことはありません。しかし、ジャッジはトーナメントの公平性を維持するためにも、必要であればその決断を行わなければならないのです。失格を見逃すことはその場の雰囲気を悪化させないかもしれませんが、しかしその見逃しによってあなたのトーナメントの公平性は、そしてさらにはマジックのトーナメントそのものに対する信頼が、失われてしまう結果となります。必要だと判断した場合には躊躇なく失格裁定を出しましょう。この記事では、いつ失格を出すべきか、そして失格を出したあとにどうすべきかについて述べます。
2.いつ失格を出すか
ジャッジは、ルール文書に則って裁定を行います。ルール文書には、失格を出すべき時がいつかがしっかりと書かれており、逆に言えばそれに合致しない場合には失格裁定は出すべきではありません。この文書のこれに該当するので失格ですとあなたがもし説明できないのであれば、それは失格裁定を出すべきではないのです。
一方で、もしルール文書にある失格裁定にふさわしいとあなたが判断したのであれば、失格裁定を出すことをためらわないでください。ここで失格を出すとあとで騒がれるのではないか、トーナメントが混乱するのではないか、そういった心配は非常に理解できるところですが、あなたの決断があるからこそ、マジックのトーナメントの健全性が保たれるのです。
またよく誤解されるところですが、「失格裁定」は、「あなたはイカサマ師(チーター)だ」と言うことと同義ではありません。日本人はプレイヤーにせよジャッジにせよ失格裁定を非常に重く感じる傾向にあります。プレイヤーによっては、失格になればだいたいはサスペンド(出場停止)になるだろうと思っている人もいるようですが、それは誤りで、世の中には「うっかり」で失格になったプレイヤーは数多く、失格裁定を受けた人のうちサスペンドを受ける人は(そういった人は悪意があると見なされたからこそサスペンドを受けるわけですが)ごく一部です。例えとしては、まあサッカーのレッドカードといったところでしょうか。重度な違反、したがって退場、でも出場停止かどうかはそれがどれだけ悪質かどうかで判断、という感じ。
そして、100%の証拠がなくても、あなたが証言や証拠から判断して、失格の条件に当てはまることが十分確からしいと思ったら、失格裁定を出してください。ジャッジの裁定は裁判ではありませんので、不確定な部分が残っていたとしても、たとえば「諸々の状況を鑑みて、私はプレイヤーAは嘘をついていると判断した。したがって失格処分を出した」という裁定をしても良いのです(もちろん状況をきちんと把握してできるだけしっかりとした証拠の元に裁定を出した方が望ましいことは当然ですが)。プレイヤーには、その裁定についてアピールをする権利があり、直接ウィザーズの本部にアピールをすることができます(日本語でもできます。その場合英語訳されてシアトルに転送されます)。
そういった諸々の手続きのためにも、失格を出したときにはきちんと証言と状況を文書化して残しておく必要があるわけですが、それについては後の章で述べます。
また失格裁定を出す前には、すべての関係者から証言を聞き、できるだけ正しい判断をするように心がけてください。インタビューは非常に重要です。何人かから話を聞くと、証言に矛盾があることがよくあります。その場合誰かが嘘をついているか、記憶違いで話をしているのです。また物的証拠、たとえばテーブルのカードの状況、ライフメモの状況なども重要な要素になることがあります。
失格裁定に関するルール文書
失格裁定に関する文書は、ルール適用度が一般であれば「一般イベント用ジャッジ法」であり、競技であれば「マジック違反処置指針」です。それぞれの文書を説明し、いつあなたが失格を出すべきか、いつ出すべきではないかを見てみます。
ルール適用度一般の場合(一般イベント用ジャッジ法)
ルール適用度一般における失格裁定については、「一般イベント用ジャッジ法」の『重大な問題』の章に記載されています。
『重大な問題』
イベントにおいて決して許容されない類の振る舞いというものが存在します。イベント前、イベント中にプレイヤーを教導するためにあらゆる努力は払われるべきですが、この一覧に書かれていることを無視することは認められません。以下のようなプレイヤーは、イベントから退場にし、主催者の判断で出入り禁止にしてください。
ルール適用度が低くても、それはトーナメントに参加すべきでないプレイヤーが参加しても良いという理由にはなりません。もちろんここにあるとおり、教育的観点から、あなたはこれから説明するような「非常に良くないこと」が起こらないように、プレイヤーに目を光らせ、必要であれば注意などを行うことは推奨されることです。しかしいったん「非常に良くないこと」が起これば、あなたはそれに毅然と対応しなければなりません。
実際に失格の対象になる行為は以下の通りです。
*(物理的であれ口頭であれ)攻撃的行為、暴力的行為、罵倒的行為
どんなものであれ暴力が許されないことは論を待たないところですが、それ以外でも、相手を激しく威嚇、または脅迫するような行為、また差別的な発言などを行うことは、マジックのトーナメントでは全く許容されない行為です。
*故意にルールを破る(ゲームのルールであれイベントのルールであれ)、ウソをつく(誘発忘れ以外の対戦相手の不正なゲームの行動を指摘しないことも含む)
「故意にルールを破る」とは、具体的には、
・ ルール上マッチの開始時にはデッキをメインデッキの状態に戻さなければいけないと知っていながら、わざとサイドボードを戻し忘れる
・ デッキを適切にシャッフルする方法を知っていながら、わざと十分でないシャッフルをする
・ シールドデッキのカード・プールにこっそりカードを加える
・ うっかり違反をしたことに気づいたが、懲罰を受けるのを避けるためにジャッジを呼ばなかった
などの行為を指します。つまり「これは違反だな」と知っていて、その上でわざとその行為をするということです。ここで注意してほしいのは、失格を出すための前提として、「そのプレイヤーがその行為が違反行為であることを知っている」必要がある事です。よくある例として、「土地呪文呪文3枚切り」シャッフルだけしかしないプレイヤーがいたとします。もし彼がトーナメントに出るのは初めてで、今までずっとそのシャッフルが「シャッフルテクニック」の1つで許される行為だと信じていたのであれば、彼に失格は出すべきではありません(彼はわざとルールを破ろうとしたのではなく、間違ったルール知識に乗っ取ってプレイしていただけなので)。
また「ウソをつく」については、もちろんジャッジに嘘をつくことは全く許容されませんし、また相手のルール違反に気づいてそれをわざと黙っていることも許されません(たとえば、「今指摘したら巻き戻されてしまうから、もう少し待ってから指摘しよう」というのも許されない行為です)。正しくゲームを進行させるのは両プレイヤーの責務なので、誘発忘れを除けば、相手の行為であろうが、ルール上間違いがあれば指摘すべきですし、間違いかどうか曖昧であればジャッジを呼ぶべきです。
*マッチ結果の(買収、脅迫、ゲーム外の方法などによる)捏造、あるいはイベントに関する賭博
失格で最も多い例の一つが、「引き分けはもったいないからサイコロを振ってどちらかが勝ったことにしよう」です。さいころを使って勝敗を決めることは決して許されません。また、金品と引き替えに結果を左右する事も許されません。プレイヤーはいつでも投了する権利がありますが、しかしそれは純粋に投了した場合のみで、何かと引き替えに投了することは認められず、それを行ったプレイヤーは(提案した方も、受けた方も)失格になります。
またこの場合は、その行為が正しくないということをたとえ知らなかったとしても、失格を免れる理由にはなりません。サイコロを振ることがだめだと知らなかったとしても、サイコロを振って勝敗を決めれば、両方のプレイヤーは失格です。
もしあなたがこれについて心配であれば、トーナメント中にこういった行為が許されていないことをアナウンスすべきでしょう。とあるお店ではこういった行為が許されていないことを必ずアナウンスし、また店内にも掲示を行うなどしており、すばらしいと感じました。
*窃盗(ドラフト中にレアをバインダーの中のカードと入れ替えるようなことを含む)
もちろんですが、窃盗は許される行為ではありません。失格処分はもちろんですが、主催者と相談して、警察に連絡するなど、しかるべき法的措置をとりましょう。
ルール適用度競技・プロの場合(マジック違反処置指針)
競技レベル以上においては、基本的にはマジック違反処置指針に書いてあることがすべてです。例示もありますので、それを参考にすれば、いつ失格を出すべきかが分かるでしょう。
また注意として、マジック違反処置指針は、競技レベル以上のトーナメントのみに適用され、一般のトーナメントには適用されません。一般トーナメントで、「マジック違反処置指針の精神を鑑みて」裁定を出す行為はやめましょう。マジック違反処置指針は、競技以上であることを前提とした文章であり、これを一般のトーナメントに適用するべきではありません。
4.3. 非紳士的行為 ─ 結果の捏造
懲罰:
【失格】
定義:
プレイヤーが、ゲーム外の方法でゲームやマッチの勝者を決めようとした、あるいはそう提案した。
例:
(A) イベントで時間切れに際して、引き分けになりそうだった2人のプレイヤーがダイスを振り、勝者を決めた。
(B) マッチの勝者をコイン投げで決めようと対戦相手に提案した。
(C) プレイヤー2人が腕相撲をしてマッチの勝者を決めた。
(D) プレイヤー2人がじゃんけんをしてマッチをするか引き分けにするかを決めた。
理念:
ゲーム外の方法で勝者を決定することは、イベントの完全性を危うくする。
時間切れによって引き分けになったマッチはその通りに報告されるはずであり、その結果を決定するために不正な方法を用いることはこの懲罰の対象となる。
多くの場合、この懲罰は両方のプレイヤーに適用される。勝者を決定する不適正な方法を対戦相手が提案してきた直後にジャッジを呼んだ時だけがその例外である。
「サイコロを振る」行為は、提案した方も、受けた方も、またそれがルール違反であることを知らなくても、失格の対象です。提案を受けたプレイヤーが失格を免れる唯一の方法は、即座にジャッジを呼ぶことです。マジックのゲーム以外の方法で勝敗を決めることは決して許されません(投了はもちろんできますが)。
また2勝1敗であったものを2勝0敗にすることも、同じように結果のねつ造となります。プレイヤーは、終わったゲームは必ずその通り報告する義務があります(1勝1敗から相手が投了しても、1回負けたことには変わらないので2勝1敗になります。2勝0敗にする事はできません)。
4.4. 非紳士的行為 ─ 買収・賭博
懲罰:
【失格】
定義:
プレイヤーが、対戦相手を誘惑して投了させたり、引き分けにしたり、マッチ結果を捏造したりさせようとした、あるいはそれを受け入れた。マジック・イベント規定に、買収の成立条件についてより詳しく記載されている。
賭博とは、プレイヤーまたは観客がイベントやマッチ、あるいはその一部の結果に関して賭けを行なうことである。賭博は金銭に限るものではなく、また、賭けの対象が自分のマッチかどうかも問題ではない。
例:
(A) スイス・ラウンドの間に、対戦相手に100ドルで投了してくれないかと持ちかけた。
(B) 対戦相手に、カードをあげるからIDしてくれ、と申し出た。
(C) 賞金を山分けにする代わりに投了してくれるよう、対戦相手に頼んだ。
(D) マッチの勝者が相手のデッキからレア・カードを1枚選んで取ってもいいと、プレイヤー2人が同意した。
(E) 観客2人が、あるマッチが終わるまでに何ゲームかかるかに関して賭けを行なった。
理念:
買収と賭博はイベントの完全性を損なうものであり、厳しく禁じられている。
買収はつまり金品と引き替えにマッチの結果に影響を与えさせる行為です。「賞品を山分けしよう」という約束はいっこうにかまいませんが、それによってマッチの結果に影響を与えてはいけません。また勝手に投了するのもかまいませんが(よく「土下座」とか言いますよね)、その投了に見返りがあってもいけません。
賭博はトーナメントルール上認められていない上に、法令上も問題があるでしょう。また賭博を行った場合、そのマッチのプレイヤーでなくても、またトーナメント参加者でない人でさえも、失格の対象になります。
4.5. 非紳士的行為 ─ 攻撃的行為
懲罰:
【失格】
定義:
他者あるいはその持ち物に対して脅迫的な振る舞いをした場合、この違反となる。
例:
(A) 投了しなかったプレイヤーに、殴ると脅した。
(B) 他のプレイヤーの座る椅子を引いて、そのプレイヤーを床に倒させた。
(C) 裁定を受けた後で、ジャッジに脅迫的な態度を見せた。
(D) 他のプレイヤーのカードを引き裂いた。
(E) 故意にテーブルをひっくり返した。
理念:
イベントの全関係者の安全は、最優先されることである。物理的な悪用や恫喝行為には、許容の余地はない。
追加措置:
イベント主催者は当該行為者をイベント会場から退場させるべきである。
暴力行為は決して許されません。また暴力を示唆して威嚇する行為も同様に決して許されません。そういった行為が発生した場合、単に失格を出すのみではなく、主催者と話をし、そのプレイヤーを会場から出すのに加え、必要であれば主催者と相談し、法的な処置が取られるようにしましょう。
4.6. 非紳士的行為 ─ イベント物品の窃盗
懲罰:
【失格】
定義:
イベントで用いる、カードやイベント用の備品などの物品を盗んだ場合、この違反になる。
例:
(A) リミテッドのイベントで、自分の開けたカードプールにあったプレミアム版のレアを、登録中にポケットに入れた。
(B) 対戦相手のサイドボードからカードを盗んだ。
(C) テーブル番号札をテーブルから盗んだ。
(D) 前の対戦相手のカードが自分のものに混じっているのに気づいて、スタッフに報告せずに隠した。
理念:
プレイヤーは、自分の物品がなくなることを心配せずにイベントに参加する。しかし、これはプレイヤーが自分の所有物に注意を払う責任がないということではない。また、イベントに持ってきた、あるいは配られた物品を最後まで持っていることは当然である。イベントの物品に関係しない窃盗はイベント主催者の責任になるが、ジャッジは可能な限り主催者に協力すべきである。
追加措置:
イベント主催者は当該行為者をイベント会場から退場させるべきである。
どんな些細なものであっても(ボールペン1本でも、テーブル番号1枚でも)、窃盗は許されません。
ただし注意してほしいのは、リミテッドのトーナメントにおいては、プレイヤーはいつでも手元にあるカードを持ってドロップできるということです。たとえばM14のシールドトーナメントのカードプール登録中に、あるプレイヤーがフォイルの《テューンの大天使》を見て、「僕はこれを持ってドロップしたい」と言ったとします。これはトーナメントルール上、許される行為です。ドロップした時点で彼の持っている(登録中の)カードは彼のものであり、彼はそれを持って帰ることができます。こういった行為を窃盗に類似する行為と見なす論調も以前はありましたが、公式見解として今はそれは許される行為ということになっています(ただしそういったプレイヤーが再びその地域のトーナメントで歓迎されるかは別の話です)。
4.7. 非紳士的行為 ─ 遅延行為
懲罰:
【失格】
定義:
時間制限を利用して有利にしようと、故意にプレイを遅くした場合はこの違反になる。故意でない場合には、〔イベント上の誤り ─ 遅いプレイ〕を適用する。
例:
(A) 手札に土地カード2枚だけを持っているプレイヤーが、ゲームに大した意味のある行動を取れない状況で時間をかけて『考え込んで』いて、時間を食いつぶしていた。
(B) 優勢なプレイヤーが、対戦相手に逆転のチャンスを与えないように明らかにプレイのペースを落としていた。
(C) 遅いプレイをしていたプレイヤーが【警告】を受けた際、考える時間を稼ぐために上訴した。
(D) マッチの第3ゲームで、次のゲームで対戦相手が勝ちにくくなるように、ゲーム開始前の時間制限を故意に超過した。
(E) ゲームで不利になったプレイヤーが、時間切れになるようにプレイのペースを落とした。
遅延行為は判断が難しい反則の一つです。ただ単に「プレイが遅い」だけでは遅延行為とはなりません(遅いプレイで警告は出るかもしれませんが)。「制限時間を利用して有利にしようと」「わざと遅くした」の2つの条件に当てはまらなければいけません。前者を判定するためには今のゲームやマッチの状況が重要ですから、裁定を出すためには当然それらを考慮しなければなりません(逆に〔遅いプレイ〕についてはゲームの状況は関係ありません。絶対的に遅いかどうかだけを見ます)。
あまり時計を気にしすぎるプレイヤーには注意しましょう。テーブルそばでジャッジが見ているだけで効果があることも多々あります。
4.8. 非紳士的行為 ― 故意の違反
懲罰:
【失格】
定義:
イベント関連文書で定められた規則を破ったり、イベント・スタッフに嘘をついたり、あるいは、自分(やチームメイト)のマッチで違反があったにもかかわらずそれに注意しなかったりした。
また、以下の条件を満たしていない場合、〔故意の違反〕にはならない。
そのプレイヤーが自分の行動で有利を得ようとしている。
そのプレイヤーが自分が不正なことをしていると認識している。
どちらかの条件でも満たしていなければ、その違反は〔故意の違反〕ではなく、他の違反で取り扱われるべきである。
〔故意の違反〕は一見すると〔ゲーム上の誤り〕や〔イベント上の誤り〕になるので、意図や認識を確認するためにジャッジによる調査が必要である。
例:
(A) プレイヤーが、マッチの終了後にそのマッチの結果を変更した。
(B) 自分の主張を強めるため、ゲーム中に何が起こったかについてイベント・スタッフに嘘をついた。
(C) 対戦相手のクリーチャーが致死ダメージを受けていないにもかかわらず、対戦相手がそれを墓地に置くことを放置した。
(D) 対戦相手が《饗宴と飢餓の剣》の誘発型能力の半分だけを解決したことに気付いた上で、その誤りを指摘しなかった。
(E) ドラフト中に、他のプレイヤーのピックを覗き見た。
(F) 対戦相手が土地を散らして充分に無作為化をしていないのを見て、ジャッジを呼ばずに、その土地を散らしたことを逆用するようなパイル・シャッフルをした。
(G) シールドデッキのカード・プールにカードを加えた。
(H) 過剰なカードを引いてしまったことに気付いたが、懲罰を受けるのを避けるためにジャッジを呼ばなかった。
これは、一般のところで述べた「故意にルールを破る」と同じ考え方です。重要な点を繰り返すと、これに該当するためには、
・そのプレイヤーが自分の行動で有利を得ようとしている。
・そのプレイヤーが自分が不正なことをしていると認識している。
の両方を満たしている必要があります。過去はこの2番目の条件が必要ありませんでしたが、今は必要です。一般のところで述べたように、「だってこうやるものだと思ってたんだもん」という証言があり、あなたがそれを信用に足ると思うのであれば、それは〔故意の違反〕とはなりません。従ってこの項目については、ルール文書にもありますが、インタビューが非常に重要になります。
ただし、「サイコロを振って勝敗を決める」や「贈賄」など、別途ルールの項目があるものに関しては、この条件は適用されません。サイコロを振ることが不正であることを知らなくても、贈賄が許されないことを知らなくても、サイコロを振ることや贈賄は失格です。
またジャッジに対するウソはどんな些細なことであっても失格裁定の対象です。ジャッジには基本的にゲームに関するすべての質問について、すべての情報を正直に話さなければなりません(相手に聞かれたくない場合はテーブルを離れて話す事は可能です)。ただし、プレイヤーが記憶違いの証言をしていて、「やっぱり思い出した」ことにより証言を翻す場合には、かならずしも失格裁定を出す必要はありません(意図的に嘘をついたわけではないので)。ただし、それによってヘッドジャッジはその証言の信憑性が低いと判断することはあるかもしれませんが。
3.失格を出すと決めたらどうするか
あなたが失格裁定を出すべきと決めたとしましょう。
まず、あなたはヘッドジャッジですか?それなら次に進んでください。ヘッドジャッジでなければ、ヘッドジャッジに相談してください。失格裁定を出せるのはヘッドジャッジのみです。フロアジャッジが勝手に失格処分を出すことは基本的に許されません。
さてまずそのプレイヤーに失格であることを告げる必要がありますが、通常はそのプレイヤーを対戦テーブルから離して、別のところに来てもらって、そこでヘッドジャッジがプレイヤーに告げることになります。これは、そのプレイヤーの事を考えて、またトーナメントにいらぬ混乱を招かないようにするための手法です。その際、そのプレイヤーがどの項目に該当し、またなぜあなたがそう判断するに至ったのかを、きちんと説明しましょう。そのプレイヤーは何か言いたいかもしれませんが、あなた(ヘッドジャッジ)が失格の裁定をすると決めた以上、そのトーナメントにおいてはあなたの判断が最終判断です。まずはあなたの裁定を説明してください。
その際、もし暴力や、窃盗などの場合には、会場からも出てもらうのがいいでしょう。また直接他のプレイヤーといざこざがあった場合には、できるだけそのプレイヤーと離れた場所にいさせるようにしてください。
基本的にトーナメント自体は、そこからそのプレイヤーを除いた形で通常通り続きます。ただし失格裁定を出した場合、ちょっとしたペーパーワークが必要です。
それは、失格処分を出した場合、あなたは基本的にそれをDCIに報告しなければならないからです。何を報告するかというと、
(1)トーナメントの種類、日程、認定番号
(2)失格になったプレイヤー名、DCI番号
(3)失格になった理由(ルール上の区分)
(4)関係者のDCI番号、連絡先、証言
これらです。これがすべて必須です。失格裁定を出した時点で、(1)から(3)はすべて大丈夫なはずです。問題は(4)です。これをどうやって作るかです。
まず、関係者すべてに失格処分について告げ、「失格処分について、その時の状況について、証言を文書にして書いてください」とお願いしましょう。ここで言う関係者とは
・あなた(ヘッドジャッジ)
・そのルーリングに携わったフロアジャッジ
・失格になったプレイヤー
・その対戦相手
・(必要であれば)観戦者
です。基本的には、あなたが失格裁定を出すためにインタビューをした人すべてです。
プレイヤーは、証言を書くことはできますが、拒否することもできます(失格処分を受けた人を含む)。ジャッジは拒否することは許されません(ジャッジはトーナメントを円滑に進めるためにいるのですから、書いて当然です)。プレイヤーに書いてもらうことは、その時の状況、どうプレイしたか、どう発言したか、などですが、その他何を書いてもかまいません(その失格裁定に関することでさえあれば)。反省の弁でもかまいませんし、「俺は絶対にやってない」でもかまいません。
フロアジャッジは、状況と、フロアジャッジなりの判断(「以上の状況から失格裁定がふさわしいと判断し、ヘッドジャッジに相談した」など)を書きます。
観戦者は、インタビューで聞かれたような、その時の状況を書きます。
ヘッドジャッジであるあなたは、なぜ失格裁定という判断に至ったのか、他の人が分かるように詳しく書きましょう。あなたの書く証言書がこのあとのプロセスで最も重要です。
・こういう状況でジャッジが呼ばれた。
・両プレイヤーにインタビューしたところ、こういう証言を得た。
・その他観戦者にインタビューしたところ、こういう証言を得た(必要であれば)
・証拠と証言を勘案すれば、実際はこういうことだったと判断される。
・したがって、プレイヤーAはこういう理由から、〔***〕に該当すると判断され、失格裁定を出した。
だいたいはこういった構成になるかと思います。
証言は日本語でかまいません。その場で紙に書かなくても、あとでメールで送ってもらってもかまいませんが、ただできるだけその場で書いてもらった方が良いでしょう。(時間がたてばいろいろ忘れてしまう)
そしてここで一番重要な事があります。かならず、関係者全員のDCI番号と、リアルの連絡先(メールアドレスか電話番号)を教えてもらってください。証言の内容を確認するために、その人に直接メールなどで問い合わせをする事がたまにあります。そのためにも、全員の連絡先は必要なのです。証言を書きたくない、というプレイヤーであっても、連絡先は教えてもらってください。
あなたは集めた証言を、ジャッジ用のwebサイトである、judge.wizards.comに登録する必要があります。この方法が分からない場合には、トーナメント終了後、WPNの日本本部に問い合わせるようにしてください。
繰り返しになりますが、失格になったからといって、必ずサスペンドが出る訳ではありません。あなたが集めた証言を元に、サスペンドを出すべきかどうかが判断されます。それゆえ、しっかりと証言を集め、連絡先を聞いた上で、あなたの判断の結果を文章として残すことが重要になるのです。確かに少し面倒なことですが、これはトーナメントの健全性を保つために必要なものですから、「失格とか出すといろいろ面倒だなあ」とつい思ってしまうかもしれませんが、毅然とした態度で、失格を出すべき時は出すという態度で臨んでいただければと思います。
コメント
リンクさせて頂きました。
リンクさせて頂きました。